監督委員
民事再生申立てがあった場合,裁判所は,監督委員による監督を命ずることができます(監督命令 民事再生法54条1項)。実務上,ほぼ全件について監督命令が発令されています。
裁判所は,再生債務者と利害関係のない弁護士を監督委員に選任し,監督委員の同意を得なければ再生債務者がすることができない行為を指定します(同条2項)。名古屋地方裁判所では,一般に以下の事項が指定されています。ただし,再生債務者の常務(通常の事業活動)は除きます。
① 再生計画認可決定確定まで
- 再生債務者が所有する財産に係る権利の譲渡,担保権の設定,賃貸その他一切の処分
- 再生債務者の有する債権について譲渡,担保権の設定,その他の一切の処分(ただし,再生債務者による取立てを除く。)
- 財産の譲受け
- 借財,手形割引及び保証
- 民事再生法49条1項の規定(双方未履行の双務契約の処理)による契約の解除
- 訴えの提起及び保全,調停,支払督促の申立て,その他これらに準ずるものとして裁判所が指定するものの申立て並びにこれらの取下げ
- 和解及び仲裁契約
- 会社財産の無償譲渡(ただし,社会的儀礼の範囲のものを除く。),債務免除,無償の債務負担行為及び権利の放棄
- 取戻権の承認
- 別除権の目的である財産の受戻し
② 再生計画認可確定後
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 別除権の目的である財産の受戻し
監督委員の同意を得ないでした再生債務者の行為は無効となりますが(同条4項),その行為の相手方が監督委員の同意を得ていないことを知らなかった場合には,その相手方との関係では有効とされます。
また,監督委員は,再生手続開始要件(民事再生法25条)の有無及び再生計画案の内容(同法174条2項)を調査し,裁判所に報告します。さらに,一定の場合,裁判所が,監督委員に対し,特定の行為について否認権を行使する権限を付与することがあります(同法56条1項)。
監督委員が上記の職務を遂行するにあたり,監督委員は,再生債務者,その代理人,再生債務者の理事・取締役・執行役・監事・監査役・清算人・これらに準ずる者及び再生債務者の従業員に対して,再生債務者の業務及び財産の状況について報告を求め,再生債務者の帳簿・書類その他の物件を検査することができます(同法59条)。
そして,監督委員は,再生計画の確定後,再生債務者の再生計画の遂行を監督します(同法186条2項)。
以上のように,民事再生手続において,監督委員は,手続の適法性・適正性を確保するために様々な権限を有しています。民事再生手続はいわゆるDIP型の再建手続であり,再生債務者の従来の経営陣が引き続き経営にあたることが可能ですが,実際には,再建と再生債権者の回収の拡大を実現するべく,経営陣及び申立代理人が監督委員と適宜協議を行いながら手続を進めます。
近年,名古屋地方裁判所管内の通常再生事件は年間10~20件程度であり,申立ての経験を有する弁護士は少なく,監督委員の経験を有する弁護士は更に限られます。法律事務所は,申立てについて豊富な実績を有し,また,複数の弁護士が裁判所より監督委員に選任されています。そのため,この申立て・監督委員両面の実績に基づき,民事再生手続を適切・的確に進めることが可能です。