遺言無効
遺言とは,遺言者の財産の処分に関する最終の意思表示です。遺言無効とは,遺言が何らかの理由により効力を持たないことをいいます。
遺言無効の理由としては,心裡留保(民法93条)や錯誤(民法95条)が考えられますが,特に重要なのは,遺言能力です(民法963条)。超高齢化社会において,お年寄りが長生きし,その最終段階において,病気等により,事理を弁識する能力を欠く場合があります。このような状況で遺言書が作成された場合,遺言無効の紛争が生じます。
遺言無効の主張は,遺言無効を主張する者とこれを有効とする者とで厳しい対立が生じます。遺言書が有効であれば,場合によっては遺留分しか取得できない相続人も,無効であれば相続分を取得することになるからです。したがって,この紛争は,遺言無効を主張する者が,これを有効とする者を相手に,遺言無効確認の訴えを提起する形となります。
通常なされる遺言の方式は,自筆証書遺言(民法968条)と公正証書遺言(民法969条)です。遺言無効の問題は,簡単に作成できる自筆証書遺言の場合はもちろんですが,公正証書遺言の場合にも起こりえます。
公正証書遺言の場合には,公証人の面前で,遺言者が遺言の内容を口授し,二人の証人が立ち会うため,遺言書作成段階において適切なチェックが入ることにより,事理を弁識する能力を欠く者が遺言を作成する可能性は低い,言い換えれば,公正証書遺言が無効とされる例は少ないようにも考えられます。しかし,遺言者が事理を弁識する能力を有するかどうかは微妙な問題もあるからです。
裁判例を見ても,脳溢血後遺症として脳動脈硬化症のため,中程度の人格水準低下と認知症がみられ,是非善悪の判断能力ならびに事理弁別の能力に著しい障害がある状況で作成された公正証書遺言や,全身衰弱・言語不明瞭・呼びかけに返事もしない状態で作成された公正証書遺言が無効とされています。法律事務所においても,複数の事件において,遺言無効の判決を受けています。
もちろん,裁判の中で,遺言無効を主張し,立証していくには,遺言者の遺言無効を基礎づける資料,とりわけ医学的資料が重要です。医学的資料をもって,遺言者の認知症等の病状を根拠づけることができれば,遺言無効に傾きます。
遺言無効の訴えは,遺言者の遺言無効を基礎づける資料,とりわけ医学的資料の収集・分析(最終的には医師の判断となります)を含むものであり,複雑な紛争になります。法律事務所では,遺言無効事件の経験を生かし,依頼者の皆様と十分なコミュニケーションを図りつつ,機動的な活動を実現します。