【自社株の承継と遺留分減殺請求権①】特定の相続人に事業を承継させ,自社株を集中させたい場合,他の相続人に対して代替財産を贈与し,遺留分減殺請求権の放棄をさせることが考えられます。しかし,遺留分減殺請求権の放棄は,事情の変更等がある場合,「撤回」することができるので注意が必要です。 |トピックス|しょうぶ法律事務所 【自社株の承継と遺留分減殺請求権①】特定の相続人に事業を承継させ,自社株を集中させたい場合,他の相続人に対して代替財産を贈与し,遺留分減殺請求権の放棄をさせることが考えられます。しかし,遺留分減殺請求権の放棄は,事情の変更等がある場合,「撤回」することができるので注意が必要です。 |トピックス|しょうぶ法律事務所

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【自社株の承継と遺留分減殺請求権①】特定の相続人に事業を承継させ,自社株を集中させたい場合,他の相続人に対して代替財産を贈与し,遺留分減殺請求権の放棄をさせることが考えられます。しかし,遺留分減殺請求権の放棄は,事情の変更等がある場合,「撤回」することができるので注意が必要です。

1 自社株の承継と遺留分減殺請求の対立
 自分の会社を特定の相続人(以下,「後継者」といいます。)に継がせたい場合,自社株の全てを後継者に生前贈与又は遺贈することが考えられます。しかし,他の相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合,以下の事例のように,後継者が全ての自社株を確保できない可能性が出てきます。

<想定事例1>
 相続財産のうち自社株が占める割合が高く,遺留分減殺請求により株式が分散する場合
 ●相続人:子がA,B,Cの3人(配偶者は既に死亡)
   →このうち,Aに会社を継がせたい
       経営者X  [配偶者(死亡)]
      ↙ ↓ ↘
     ★子A 子B 子C
 ●Xの財産
  ①不動産7000万円,②現金等3000万円,③自社株8億円,④債務0円
   →このうち全株式(8億円)をAに遺贈。
 ●遺留分算定の基礎財産=相続財産+贈与財産-債務額
  7000万円+3000万円+8億円-0円=9億円
 ●遺留分の割合
  遺留分権利者が直系尊属のみの場合 1/3 × 法定相続分
  遺留分権利者が上記以外の場合   1/2 × 法定相続分(今回はこちら)
 ●BとCが遺留分減殺請求権を行使した場合
  9億円 × 1/2 × 1/3 = 1億5000万円(1人あたり)
   ○BとCは,各1億5000万円,合計3億円分を確保できる。
   ○Aは,Xの相続財産から6億円分しか確保できない。
    =全ての株式(8億円)を取得することができず,株式が分散する。

<想定事例2>
 自社株の生前贈与後に自社株の価値が増加したため,遺留分減殺請求により株式が分散する場合
 ●相続人:想定事例1と同じ。
 ●Xの相続開始時の財産
  ①不動産,現金等 2億円
  ②自社株 贈与時の株式の価値:1億円
   ⇒ 相続開始時の株式の価値:10億円
  ③債務 0円
 ●遺留分算定の基礎財産=相続財産+贈与財産-債務額
  2億円+10億円(相続開始時の貨幣価値に換算)-0円=12億円
 ●遺留分の割合
  1/2 × 法定相続分
 ●BとCが遺留分減殺請求権を行使した場合
  12億円 × 1/2 × 1/3 = 2億円(1人あたり)
   ○BとCは,各2億円,合計4億円分を確保できる。
   ○Aは,会社の業績を上げ株式の価値を増加させてしまったために,
    Xの相続財産から8億円しか確保できない。
    =全ての株式(10億円)を取得することができず,株式が分散する。

2 遺留分減殺請求権の放棄
 これらの事態を防ぐために,後継者以外の相続人に,事前に遺留分減殺請求権を放棄させることが考えられます(民法1043条1項)。遺留分減殺請求権を放棄させるためには,家庭裁判所の許可を得なければなりません。許可の基準として,以下の3要素が考慮されます。
  ①遺留分権利者の自由意思に基づくものであること
  ②放棄理由の合理性・必要性があること
  ③放棄と引き換えに贈与等の代償が存すること

3 遺留分減殺請求権放棄の撤回
 ここで注意すべきなのは,この基準をクリアして遺留分減殺請求権の放棄が許可されたとしても,放棄の「撤回」がありうるということです。家庭裁判所は,事情の変更がある場合には放棄の撤回(手続的には許可審判の取消し)を認める傾向にあります。せっかく遺留分減殺請求権を放棄してもらっても,撤回がありうるとなれば後継者も安心できませんね。

 【自社株の承継と遺留分減殺請求権②】では,中小企業経営承継円滑化法の特例制度について扱います。

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