2015.12.14
【自社株の承継と遺留分減殺請求権②】特定の相続人に事業を承継させ,自社株を集中させたい場合,中小企業経営承継円滑化法の特例制度を利用し,①自社株を遺留分算定の基礎財産から除外する合意,又は,②遺留分算定に際して,自社株の価額を合意時の価額に固定する合意をすることが考えられます。
1 除外合意と固定合意の内容
(1) 自社株の承継と遺留分減殺請求権①でお話しした想定事例1及び2に対処するため,中小企業経営承
継円滑化法(以下「法」といいます。)では二つの制度を用意しています。
一つは除外合意,もう一つは固定合意と呼ばれるものです。
(2) まず,除外合意とは,遺留分算定の基礎財産から自社株を除外するという遺留分権利者全員の合意で
す(法4条1項1号)。除外合意がされた場合,想定事例1における遺留分算定の基礎財産は,不動産
7000万円と現金等3000万円のみとなり,Aは株式を全て取得することができます。
(3) 次に,固定合意とは,遺留分算定の際の自社株の評価額を,合意時の価額に固定する合意です(法4
条1項2号)。想定事例2において株式贈与時に固定合意をした場合,遺留分算定の基礎財産は,
不動産,現金等2億円及び株式1億円(合意時の価額)となり,BとCの遺留分減殺請求権に対しては,
3億円(基礎財産)×1/2(遺留分割合)×1/3(法定相続分)×2(BとCの2人分)
=合計1億円の財産を確保すればよく,株式以外の財産から支払うことが可能なので,Aは株式を
全て取得することができます。
2 除外合意と固定合意の要件
(1) 除外合意及び固定合意は,以下の要件を満たした上で,①遺留分権利者全員の合意を得て(法4条
1項本文),②経済産業大臣の確認(法7条)及び③家庭裁判所の許可(法8条)を受けることが
必要です。
(ⅰ) 会 社:合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること
(法3条1項,法施行規則2条)
(ⅱ) 現経営者:過去又は合意時点において会社の代表者であること(法3条2項)
(ⅲ) 後 継 者:合意時点において会社の代表者であり,かつ,現経営者からの贈与等により株式を取得
したことにより,会社の議決権の過半数を保有していること(法3条3項)
(2) なお,後継者が現経営者より先に死亡した場合,遺留分権利者が増えた場合など一定の場合には,
合意の効力が消滅するとされています(法10条)。
3 除外合意と固定合意の実施状況
しかし,この制度はあまり活用されていません。中小企業経営承継円滑化法は平成20年に施行されていますが,平成26年2月末時点で利用件数は69件(全て除外合意)にとどまっています。愛知県では8件実施されています。
事業承継をお考えの方は,この制度の利用をご検討いただくのも良いかもしれません。その他,法律事務所では円滑な事業承継を支援しております。お気軽にご相談ください。