2015.07.06
会社法改正⑩【組織再編等の差止請求】 略式組織再編以外の組織再編(簡易組織再編を除く),全部取得条項付種類株式の取得及び株式併合について,①当該組織再編が法令又は定款に違反する場合であって,②株主が不利益を受けるおそれがある場合には,差止請求をすることができるとの規定が新設されました。
1 改正の必要性
改正前会社法では,株主が組織再編の差止めを請求できるのは,当事会社の一方が他方の特別支配会社である場合に限られており(略式組織再編である場合。会社法784条2項,796条2項),その他の場合については,組織再編の差止請求に関する明文規定は設けられていませんでした。
略式組織再編以外の組織再編に問題がある場合の既存の制度として,組織再編無効の訴え(会社法828条)によって事後的に組織再編の効力を争うことが考えられます。しかし,これについては,事後的に組織再編の効力が否定されると法律関係を不安定にするおそれがある,との指摘があります。また,解釈論で,株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項)を本案とする仮処分命令により差止請求ができるとする見解もありますが,組織再編の差止めを直接的な目的とした制度ではないことから,一定の制約が存在します。
そこで,改正会社法においては,略式組織再編以外の組織再編(簡易組織再編を除く)について,事前の救済手段としての一般的な差止請求の規定が新設されました(改正会社法784条の2,796条の2,805条の2)。全部取得条項付種類株式の取得及び株式併合についても,同様の規定が新設されています(改正会社法171条の3,182条の3)。
2 差止請求の要件
改正会社法において新設された組織再編にかかる差止請求については,①当該組織再編が法令又は定款に違反する場合であって,②株主が不利益を受けるおそれがあることが要件とされています。
要件①の具体例としては,組織再編契約等の内容が違法である場合,組織再編契約等に関する書面等の不備置又は不実記載,組織再編の承認決議に瑕疵がある場合等が考えられます。ここでいう「法令」とは,会社を名宛人とするものを指しているため,役員個人を名宛人とする善管注意義務違反や忠実義務違反は法令違反には当たりません。
要件②については,略式組織再編に対する差止請求と異なり,当該組織再編の対価が当事会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当であることは含まれないこととされています。その理由として以下の二点が挙げられます。第一に,略式組織再編以外の組織再編では株主総会決議がなされるため,株式の対価の正当性については既に議論されており,納得しない少数株主は株式買取請求によって保護されるので,対価の不当性を差止の理由とする必要がありません。第二に,組織再編の差止請求は,実際には仮処分命令申立事件として争われ,裁判所は短期間での審理が求められることから,対価の不当性を要件とすると,裁判所における審理が困難となるおそれがあることも理由となっています。
今後,組織再編等を行う場合には,従前よりも慎重な対応が必要となりますので注意しましょう。