2024.12.23
債権回収を円滑にするための契約書のポイント②~期限の利益喪失条項
2 期限の利益喪失条項
取引先の経営状態が危うい兆候(差押え、手形不渡りによる取引停止等)が見られる場合には、いち早く債権回収に動く必要があります。
ところが、特別な条項を置いていない売買契約や金銭消費貸借契約では、「経営状態に危うい兆候が見られる」というだけでは、期限の利益(支払期限までは支払いをしなくてよいこと)を喪失させることはできず、本来の期限より代金等の支払いを早めさせたり、契約を解除したりすることができません。
特別の定めがないと、
- 実際に契約で定められた義務(代金支払義務、貸金返還義務等)の債務不履行があった
- 債務者が破産手続開始の決定を受けた(民法137条1号)
- 債務者が担保を滅失、損傷、減少させた(同条2号)
- 債務者が担保提供義務を負っているのに、担保提供しなかった(同条3号)
という場合に初めて、債務者が期限の利益を失い、債権者は債権回収を開始することができるのです。
しかも、分割払いや分割返済の場合には、支払いが遅れた回の分しか請求することができず、代金や貸金の全額までは請求することができません。
そこで、経営状態の危機を示す事態が生じた場合にすぐに債権回収に動けるよう、次のような期限の利益喪失条項を置くことが多くあります。
①通知を要する場合
甲又は乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、相手方に対する通知により、相手方が負っている一切の債務について期限の利益を喪失させることができる。
一 弁済期にある債務の履行を一度でも怠った場合
二 支払停止又は支払不能の状態に陥ったとき
三 破産手続、民事再生手続、会社更生手続又は特別清算の各開始の申立てがあったとき
四 差押え、仮差押え、仮処分又は競売の申立てがあったとき
五 ・・・
②当然に期限の利益を失う場合
甲又は乙は、次の各号のいずれかに該当したときは、相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
一 ・・・
二 ・・・
こうした期限の利益喪失条項を設けておけば、未払い代金の請求に早めに着手できる、相殺によって代金回収を図ることができる、早期に契約を解除して、商品の納品義務を免れる、といった対応が可能になります。
弁護士として契約書レビューをしていても、こうした期限の利益喪失条項が設けられている契約書をよく目にします。